飼い猫が多発性嚢胞腎だった@スコティッシュフォールドの遺伝性の病気
ペットは家族の一員。愛し愛され、愛猫との幸せな暮らし…ずっと一緒にいたいのは誰もが願うことですね。でも生きとし生けるものいつかは寿命を迎え、お別れの時が訪れます。
私の実家の猫ミッシェルはある病気を発症し、闘病の末、平成26年1月に8歳でこの世を去りました。スコティッシュフォールドミックスだったミッシェルの病気は珍しい遺伝性の不治の病だったのです。
病名は「多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)」。珍しい病気ですがスコティッシュフォールドとペルシャの遺伝子を持つ猫の飼い主さんには知っていてほしい病気です。獣医師もまだわからない人が多く、ただの腎不全と診断されているのが現状と思われます。
スコティッシュフォールドの特徴
大人気のスコティッシュフォールド。その魅力と弱点をあげてみました。
■スコテュッシュフォールドの魅力
- 可愛い容姿。丸顔で大きな目はぬいぐるみのような愛らしさ。
- たれ耳の個体が人気。
- 「スコ座り」と呼ばれる足を投げ出すような座りかたが人気。
■スコテュッシュフォールドの弱点
- 体が弱い。(すぐ風邪をひく・胃腸も弱い)
- 遺伝子性疾患が現れやすい(股関節異常・心臓肥大症・多発性嚢胞腎)
- たれ耳の個体は耳の不調が出やすい
- たれ耳の個体(人気で高値がつく)を作り出すために、ブリーダーの間で無理な交配が行われている
獣医さんや動物愛護団体など「スコティッシュフォールドは交配に使うべきではない」「異常な遺伝子を掛け合わせることは、生まれてくる命に対して暴力でしかない」など厳しい意見を述べる人も増えています。
可愛い子猫がやってきた
ミッシェルは元保護猫でした。福井の保健所から千葉にある動物愛護団体に引き取られ、母が里親になりました。
実家にやってきた当時ミッシェルは生後2ヶ月。初めて連れて来られた家なのに、利発そうな顔つきでちょこんと母の膝に座って、人間たちの会話を静かに聞いていました。人懐っこい瞳。なんてきれいな子猫だろう!と感心したものです。
ミッシェルはすぐに馴染みました。運動神経がよく、大変賢く、人が大勢いて賑やかなのが大好きな子。当時父が入院中だったため、いつもは母とふたりっきりの暮らしです。私や妹夫妻が来ている時は本当にうれしそうにはしゃいでいました。
2歳半の時、ミッシェルに弟ができました。同じ動物愛護団体からもう一匹子猫をお迎えしたのです。弟レオがやってきて、ミッシェルは大張り切り!甲斐甲斐しくお世話する優しいお兄ちゃんになったのでした。
不安な兆し
ミッシェルに何の血が入っているか考えたことはありませんでした。でも後に段々スコ独特の症状が現れ始めます。
ミッシェルは大変運動神経がよい猫で、高さ180㎝ほどの本棚に垂直に駆け上がることができました。それができなくなったのが5歳の時です。当時は理由がわからなかったのですが、スコティッシュフォールドの遺伝性の問題の中には骨や関節の異常があって、特に股関節が弱いようです。
本棚に駆け上がれなくなったのと同じ頃、それまで明るかったミッシェルが日中客間のソファーベッドの下に引きこもるようになります。私や妹が遊びに来ていても1、2回挨拶するように出てくるだけで、すぐまた隠れてしまうのでした。「猫も鬱になるのかしら?」と心配する母…病院に連れていくことにしました。
動物病院での健康診断ではそれほど悪い数字はなく、腎臓の数値がちょっと要注意だけど、まだ対策は必要ない程度…とのこと。引きこもるのは日中だけで、夜は母に甘え、レオとも仲良く眠ったりしていたので、誰も深刻には受け止めていませんでした。
今思えばこの時すでに発病していたのです。多発性嚢胞腎は進行の遅い病気で数年間気づかれないことも多いといいます。ミッシェルは苦しみを耐えて引きこもっていたのでしょう。
だんだん水を飲む量が増え、やたらオシッコをするようになりました。ビロードのようななめらかな手触りだった毛並がパサつき始め、時々嘔吐も。また動物病院に連れていくと、腎臓の数値が良くないので、療養食を薦められました。まだ点滴などはしなくていいとのことだったので、ドライフードを腎臓サポートに切り替えて様子を見ることに。
他の動物病院にも行ってみたけれど
療養食にしてもミッシェルは引きこもりで、どんどん元気がなくなっていくようでした。母は動物病院の対応にも不安を感じ始めます。私も同行して他の病院を当たってみることに。
近所のふたつの動物病院に行ってみました。どちらの獣医さんも、ミッシェルの症状を聞き血液検査をすると「腎不全」という診断を下し、毎日点滴に通うよう言いました。
ただ、気になったのがどちらもほとんどミッシェルに触れなかったことです。採血の時にさわっただけで、触診がほとんどありません。最初のかかりつけだった病院ではかなり時間をかけて触診していたので、これで大丈夫なのか?と不安になりました。
母とよく相談し、最初の病院に戻って、今度は院長先生を指名して診ていただくことに。そこは獣医さんが何人もいるので、指名しない限り、大抵若い先生の診察になるからです。
院長先生は長い触診のあと「腎臓が大きい…」とつぶやきました。詳しい検査をすることになり、ミッシェルを置いて母と私はいったん帰って連絡を待つことに。4時間後電話鳴ります。「悪い結果です。病院に来てください」と先生が言いました。
病気が判明し余命宣告へ
「ミッシェルに遺伝性の病気が見つかりました。多発性嚢胞腎という腎臓に池(嚢胞)がたくさんできてしまう不治の病です。
これはペルシャ、アメリカンショートヘアー、スコティッシュフォールドに出る遺伝性の病気でミッシェルは特徴から見て、スコティッシュフォールドミックスだと思います。腎臓機能が低下していて今は末期の腎不全の状態。治療法はなく、できることは延命になります。」と院長先生。
画像のレントゲン写真の中央あたりに大きく肥大した腎臓があり、その中にいくつもの黒い影が見られます。写真はもらいませんでしたが、超音波検査ではもっと鮮明に映りました。
この黒い影が嚢胞で、大小すごい数できていました。猫の腎臓は通常だと3㎝大だそうですが、ミッシェルの腎臓は6.5㎝と9㎝まで膨れ上がっていて、一番大きい嚢胞が3㎝大だったのです。母は言葉を失って震えました。
延命治療の方法は皮下点滴と注射器で嚢胞の水を抜くというもの。ただ、何度も注射器を刺されるのは猫もつらいし、大きい嚢胞3つくらいが限界だろうということでした。先生は厳しい状況を丁寧に説明していきました。
- 少し延命はできるが痛み止めがない
- 延命しても持って4ヶ月、延命しなければあと2ヶ月だろうということ
- 大変苦しい最期になると思うので安楽死も視野にいれて
- 毒素のまわりかた次第では発狂状態になることもある
母の決断
母と私は悲しい気持ちでミッシェルを連れて家路につきました。母は考え、延命治療をしないことに決めました。ミッシェルが苦しむ時間を引き延ばしては可哀想だからだそうです。「安楽死もさせたくない」と母。
気持ちは痛いほどわかります。残り少ない日々をいつも通り過ごして、ミッシェルを家で看取ろうと母は決心したのでした
ミッシェルの旅立ち
院長先生の余命宣告を越え、ミッシェルが旅立ったのは5ヶ月後のことです。ミッシェルはずっと辛そうでしたが、いつも語りかけるように母をじっと見つめていました。
腎不全には電解質パウダーを水に溶いて飲ませるといいと人からアドバイスをもらったのですが、これは本当によかったです。自分からは動かなくなるので、小マメに口元まで水を持っていきました。電解質を摂ると少しだけスープも飲みました。
粗相や嘔吐が増えて、何も食べなくなり痩せ細って、パサパサの毛になって、最後には家族ひとりひとりに挨拶をするかのように順番に一緒に寝てくれました。息を引きとる前夜には這うように母の膝に乗ってきて、一晩中抱かれていたそうです。発狂状態にはなりませんでした。最後まで思慮深い優しい子でした。
まとめ
多発性嚢胞腎は1000匹に1匹くらいの珍しい病気だそうです。でも遺伝性であることを考えると、無理な交配を重ねて作り出している人間のエゴは許されることではありません。
これからスコティッシュフォールドを飼う人は、身体が弱いこと、遺伝子異常が出やすいことをよく調べて判断してください。可愛いから飼ったけどこんなはずではなかった…と後悔しないようにしましょう。そして飼ったら、どんな病気になっても最期まで暖かく見守ってあげてください。
獣医さんは慎重に選びましょう。院長先生は触診で腎臓の肥大に気づきました。よく触ってくれる獣医さんがよいでしょう。
こんな悲しい別れ方になってしまいましたが、ミッシェルと出会えて私達は本当に幸せでした。母の元に来てくれたこと、8年も一緒に暮らしてくれたこと、心から感謝しています。ミッシェルのいた日々は素晴らしい思い出です。